数年前に、S銀行が、女性向けシェアハウスを売っている不動産会社であるS社と、不正に融資をしている問題が世間を騒がしました。
2018年に出された第三者委員会の調査報告書は338ページにも及びますが、読むと参考になるところがあります。
不動産投資では、だます人が悪いですが、だまされる側にも全く責任がないとは言い切れません。
売買契約書、ローン契約書等にサインをして、不動産投資をするのは、契約書の内容に納得してサインをした本人だからです。
不動産投資でだまされる人の共通点は、不動産会社や金融機関が言っていることを鵜呑みにして、調べようとしないことです。
調べれば不自然な点が必ずあります。
不動産投資はフルローンでも自己資金が必要
S銀行の不動産投資ローンは、自己資金として物件価格の10%を融資基準にしており、融資限度額は90%です。
S社は、通常の契約書の他に、物件価格に10%を上乗せした売買価格の契約書を作成し、いわゆる二重契約ですが、S銀行には高い方の契約書を渡していました。
高い方の契約書に基づくと、融資限度額は売買価格の90%相当である物件価格となるので、自己資金は必要なく、フルローンが可能となります。
通常の契約書には印紙を貼付し、高い方の契約書は、S銀行に見せるためだけに作成していたので、印紙を貼付していませんでした。
S銀行には二重契約の価格に関する資料とあわせて、高い方の契約書に貼付するために、通常の契約書の印紙画像を送付していたので、S銀行は二重契約について知っていました。
また、報告書によると、S社が契約書を偽造しない限り、オーナーは認識することができ、オーナーが知らないとは考えにくいとしています。
オーナーは二重契約という不自然な契約をなぜ結ぶ必要があるのかということをおかしいと思って調べる必要があります。
フルローンで不動産投資ができたとしても、自己資金がないということは、空室になって家賃収入が得られなくなった場合には、本業の収入、自己資金からローンを返済する必要があるのです。
土地に価値があり、土地値に近い物件はフルローンも出ることがありますが、金融機関からはある程度の金融資産が求められます。
資産規模拡大の局面では、自己資金を減らさないためにもフルローンは有効ですが、自己資金がない状態でのフルローンはリスク以外の何ものでもありません。
不動産投資ローンには金融資産が必要
S銀行の不動産投資ローンは、自己資金として物件価格の10%を融資基準にしています。
S銀行は、預金通帳の写しをとり、残高を多くする偽装をして、自己資金が十分にあるように見せかけていました。
原本と異なるにもかかわらず、「原本の写しに相違ありません」という記載し、行員や所属長が印鑑を押していました。
S銀行では原本を確認することが当たり前で、原本を確認する規定がないことをこの問題の背景にしていますが、行員自らが偽装し、自ら証明することに言い訳の余地はない気がします。
先ほどの二重契約と異なり、オーナーの知らないところで行われていたので仕方ない面もあります。
ただ、不動産投資ローンをフルローンでくむにはある程度の金融資産が必要になるということを知っていれば、おかしいと気付きます。
不動産投資ローンには年収が必要
S銀行の不動産投資ローンは、年収の40%を限度として、ローンを返済することを融資基準にしています。
年収を高くして、融資を引き出すために、S社は源泉徴収票等の所得を増やす偽装をして、S銀行に通常と偽装した2つの源泉徴収票を渡していました。
家賃収入が得られなくても、年収の40%までなら、生活費を考えても、ローンを返済することができるという判断です。
年収は社会保険料、税金を差し引く前の金額であるため、手取額はもっと少なくなることを配慮する必要があります。
したがって、本業である給与収入等から返済することは避けて、家賃収入のみでローンを返済していくことを考えるべきです。
家賃収入に占める返済額の割合を少なくして、理想は40%代で手取額を増やしていきます。
半分が空室になっても他の部屋の家賃収入でローンを返済することができますし、手取額であるお金を貯めて、将来の空室や修繕に備えます。
入居偽装は現地確認で見抜ける
S銀行の不動産投資ローンは、家賃収入の70%を限度として、ローンを返済することを融資基準にしています。
家賃収入を多くして、融資を引き出すために、S社はレントロールの家賃収入を増やし、空室なのに住んでいる偽装をして、S銀行に現状と偽装した2つのレントロールを渡していました。
レントロールの家賃収入を多く見せかけた場合には、周囲の相場に比して高いことに気付かないといけませんし、高いのには何らかの理由があります。
レントロールは最新のものを入手し、入居者、賃料の内容が不審であれば、賃貸契約書を取り寄せて確認することも方法の一つです。
オーナーがS社と現地確認する際には、S社はあらかじめ部屋のカーテンを引くことによって、人が住んでいるかのような偽装を行っていました。
必ずしも、不動産会社と一緒に現地確認に行く必要はなく、不動産会社に言わないで抜き打ちで、不審なら何回も見に行けばいいのです。
カーテンで偽装しても、電気メーター、ガスメーターの稼働状況、ポストの郵便物、駐車場の使用状況、洗濯物等を確認すると、生活感は必ず表に出てきます。
不動産投資に家賃保証なんてうまい話はない
S社は、オーナーとの間でサブリース契約を結んで、家賃を30年間保証していました。
家賃を30年間保証して、払い続けてくれるなんて、普通に考えればあり得ませんし、それだけ払い続ける自信があるなら、自分たちが不動産賃貸会社として物件を保有します。
サブリース契約書を読むと、家賃を減額することができ、解約できない旨が書かれており、借主である不動産会社にとって有利になっています。
不動産投資にうまい話はなく、自分が理解していない契約書にサインは絶対しないことです。
契約書のわからないことは不動産会社に聞くなり、自分で調べるなりして、理解してからサインをします。
不動産投資のターゲットを特定の居住者にしない
女性向けシェアハウスの入居者は、男性やシェアをしたくない女性は除かれるわけで、わざわざターゲットを絞った物件を買う必要はありません。
S社は、企業が採用し、地方から出てきた女性をターゲットにしており、需要があることをうたい文句にしていましたが、実際には空室が生じていました。
特定の大学、企業の周囲にあり、そのような入居者を期待した物件は、大学、企業に依存しているので避けるというのが鉄則です。
事業所や店舗も景気の影響を受けやすいので、個人が行う不動産投資の対象としては避けた方がよいです。