アメリカでは、中古不動産を購入すると、建物付属設備、動産の耐用年数が経過していても、区分計上します。これをコスト・セグリゲーションといい、日本の国税庁にあたる内国歳入庁が認めています。
日本では、裁判所の判断からすると、減価償却による損耗を考慮するので、建物付属設備などを計上することができません。
その判断に対する反論と、それでも建物付属設備などを計上する方法について書いています。
建物と建物付属設備を区分する理由
建物付属設備を利用して、家賃収入を得ている以上は、経費である減価償却費を計上することにより、適切な期間損益計算を行います。
納税者にとっては節税につながります。
建物付属設備の耐用年数は、建物より短くなります。コンクリート造のマンションは47年ですが、電気設備、給排水・衛星設備、ガス設備は15年、エレベーターは17年です。
耐用年数で償却するため、建物付属設備の減価償却費の金額は大きくなります。
全ての期間を通した減価償却費の合計金額は同じですが、早期に多額の減価償却費を計上することができます。
将来お金を1万円もらうよりも、節税により今1万円受け取った方が、時間的な価値が高いという考え方です。
むしろ建物と建物付属設備に区分しないといけない
減価償却費は、建物、建物付属設備等の減価償却資産の種類の区分ごとに計算すると、所得税法、法人税法に書かれています。
更に、通達(税務職員が仕事をする上で守るもの)にも、コンクリート造のマンションの建物附属設備は、建物と区分して、耐用年数を適用すると書かれています。
建物と建物付属設備に区分することが「できる」ではなく、むしろ区分しないと「いけない」ことになっています。
建物と建物付属設備に区分する方法
建物付属設備の割合はおおむね30%であるため、30%で建物付属設備を計上するのは適切ではありません。
判例などから以下のいずれかの金額、割合により、建物と建物付属設備に区分することになります。
- 売買契約書に記載された金額
- 工事請負契約書に記載された工事費の割合
- 固定資産税評価額の再建築費評点数表に記載された再建築評点数の割合
- 同業他社の物件から見積もった割合
1から順に優先して適用されます。2の工事費、3の再建築評点数は、建築時の数字であるため、損耗を考慮し、経過年数で減価償却した後の数字を使います。
通常、売買契約書には、消費税が記載されており、割り返すことによって、建物の売買価格を知ることができます。
それとは別に、建物付属設備の売買価格を売買契約書に記載するということは、金額の根拠が必要であるため、売主からの協力がないと1の契約書の金額を使うのは無理です。
建築時に作成された工事請負契約書は、中古不動産の売買に必要ないので、工事請負契約書は残っていないことも多く、2の工事費の割合で按分するのも難しいです。
都税事務所、市役所から建築費評点数表を取得する必要がありますが、3の再建築評点数の割合により按分する方法は、他の方法に比べると手軽にできます。
4の同業他社の物件を調査し、見積もった割合を使うには、労力やコストがかかります。
耐用年数経過後の建物付属設備を計上できないことへの反論
裁判所の判断の矛盾
裁判所は、損耗を考慮する必要があるため、減価償却費を計算し、未償却残高の割合で按分すると判断しています。
建物付属設備の耐用年数、15、17年を経過している中古不動産は、建物付属設備を計上することができないことになります。全額が建物に計上されます。
裁判所の判断によると、建物の耐用年数、47年を経過している中古不動産を購入した場合には、建物を計上することができません。しかし、当然そうとはならず、購入代価を支払っている限り、建物を計上する必要があります。さきほどの判断と矛盾します。
固定資産税の評価の考え方
固定資産税の建物の評価では、建物と建物付属設備をあわせた再建築評点数(建築材料などを点数として積み上げたもの)に減点補正率(償却率みたいなもの)をかけて、損耗を認識します。
建物と建物付属設備といった部分ではなく、建物全体の平均として、性能の劣化をとらえています。
固定資産税の評価の考え方によると、損耗の割合は一定であり、結果として、建築時の工事費、再建築費評点数の割合で、建物と建物付属設備に区分します。
建物付属設備を含めた建物全体を使用できる状況で購入しているのであれば、全体として損耗を認識する考え方です。
耐用年数経過後の建物付属設備などを計上する方法
反論を申し上げましたが、損耗は減価償却により認識するというのが裁判所の判断であり、それに従って、建物付属設備を計上すべきです。
それでも、耐用年数を経過している建物付属設備を計上する方法があります。
修繕工事の中から建物付属設備を計上
工事年月日、内容、金額が記載された修繕工事一覧の中から、付加価値をつけているような建物付属設備の工事を拾います。区分マンションであれば、マンション管理組合から修繕工事一覧を取得することができます。
共用部分の工事であるため、持分割合をかけて、自分の負担分を計算します。損耗を考慮し、経過年数で減価償却した後の金額を使います。
また、売主が、キッチン、お風呂、トイレなどを新たに設置した上で、不動産を販売することもあります。この場合には、売主に工事明細書の写しを依頼し、明細書の金額で建物付属設備を計上します。
不動産鑑定士に建物付属設備の評価を依頼
十数万円という費用がかかります。
ただ、いずれ減価償却費として計上することができますし、売却時には減価償却してない分だけ譲渡原価が大きくなります。
費用と節税の効果と比較して、鑑定評価を依頼します。1棟の中古マンションでエレベーターを区分計上する場合に依頼するケースが多いです。
現物確認により動産を計上
アメリカにはコスト・セグリゲーションを専門に行う会社があります。その会社の調査によると、動産の割合が高く、20%近くを占める不動産もあります。
不動産投資では、借主が住んでいる状態で引き継がれることが多く、内見することは難しいかもしれませんが、タイミングがあえば、内見をしておくべきです。
例えば、エアコンが新しく、ほとんど使われてない場合や、型番を確認し、最近設置されたものである場合には、型番から金額を調べて、動産を計上することができます。その際には、写真などの証拠資料を残しておきます。