減価償却費は、経費の中でも多額で、毎年計上することができるので、税金への影響が大きくなります。
減価償却費にはお金を回収する効果があり、不動産投資のキャッシュ・フローを考える上で、減価償却費は大切です。
物件購入時に計上できる減価償却費の限度額は決まります。
不動産投資の節税で、減価償却費がスゴい理由
減価償却費はお金を回収してくれる経費
お金を回収してくれる経費って何?と思われる方もいると思います。
税理士試験では、減価償却には「投下資本の回収」という効果があると習います。
投下資本は、不動産投資では、最初にお金を払って購入する不動産投資用物件のことです。
減価償却費は、既にお金を払っており、前払を徐々に取り崩して経費にしていくイメージですので、お金を払ってすぐ経費になる諸経費とは異なります。
例えば、以下の決算があるとします。
①家賃収入 | 100 | 100 |
②減価償却費 | 30 | 0 |
③諸経費 | 0 | 30 |
④利益(①-②-③) | 70 | 70 |
⑤税金(④×税率20%) | 14 | 14 |
⑥手残り(①-③-⑤) | 86 | 56 |
手元に残るお金は、減価償却費の計上により大きくなっており、減価償却費は家賃収入であるお金として回収されています。
払ったお金を早めに回収して、事業等に有効活用していくべきです。
法人の減価償却費は任意計上
個人の減価償却費は強制計上ですが、法人は任意計上です。
違いの理由は、減価償却費の金額を後から変えられるか否かです。
法人は、決算で減価償却費を経費として任意計上しても、株主総会で確定された利益に基づき税金を計算するので、後から減価償却費の金額を変えることができません。
一方、個人には、そのような仕組みがありません。
後から減価償却費の金額を変えることができ、税金がいつまでも決まらないので、強制計上としました。
法人は任意計上することができ、利益、所得によって減価償却費の金額を変えることができます。
所得金額 | 税率 |
400万円以下 | 21% |
400万円超 800万円以下 | 23% |
800万円超 | 33% |
売上がそれほど大きくない段階では、所得金額が800万円を超えないように、減価償却費を計上するというのが基本になります。
減価償却費は物件購入時に決まる
耐用年数を意識して、不動産投資を効率的に行う
新築の建物の耐用年数は以下の通りで、中古物件の耐用年数はその下の式で計算します(端数は切上げ)。
構造 | 耐用年数 | 全部経過 | 例えば15年経過 |
木造 | 22年 | 5年 | 10年 |
鉄骨造 | 34年 | 7年 | 22年 |
RC(鉄筋コンクリート造) | 47年 | 10年 | 35年 |
- 耐用年数を全部経過→耐用年数×20%
- 耐用年数を一部経過→(耐用年数-築年数)+経過年数×20%
建物の金額を耐用年数で割って、減価償却費を計上していくので、購入時点で減価償却費の金額が決まります。
物件を購入してからではなく、購入前に減価償却費を計算して、キャッシュ・フローを把握し、物件購入の判断材料にすることが大切です。
木造、鉄骨造、RCにはそれぞれ、メリット、デメリットがありますが、短い耐用年数でお金の回収を早くして、不動産投資を効率的に行うことも必要です。
付属設備、建物、土地の順に優先して計上
土地より建物
土地と建物を区分計上して、できる限り建物の金額を大きくすることによって、減価償却費を多く計上することができます。
売買契約書に消費税が記載されていて、契約が済んでいる場合には、合意しているので、消費税を割り返した金額が建物の金額になります。
不動産会社は建物の金額を抑えることで、納める消費税を少なくしたい意向があるので、契約書を結ぶ前に、不動産会社と調整した方がよいでしょう。
建物の金額を計算する方法はいくつかありますが、大切なことは、建物、土地の金額が、客観的な価格に比べて、極端に大きく、あるいは小さくしないことです。
売買金額の総額を固定資産税評価額で按分する方法が、最も合理的で、コストがかりません。
不動産会社には建物の金額をそれ以上にしてもらいますが、上げすぎると土地の金額が少なくなり、将来売却する際に課税されるので配慮してください。
売主、買主それぞれで決める場合に、契約書に記載しないことがあります。
その場合も、固定資産税評価額で按分して、建物の金額を計算します。
譲渡所得の計算で、建物の取得価額が不明な場合には「建物の標準的な建築価額」を基に計算しますが、固定資産税評価額で按分した金額と著しく乖離する場合があるので注意が必要です。
建物より付属設備
具体的な方法はここでは説明しませんが、築浅の物件で、付属設備の耐用年数15年を経過していない場合には、建物と付属設備を合理的に区分計上することができます。
むしろ、法令には減価償却資産は区分し、通達には付属設備は原則として建物と区分すると書かれています。
建物の附属設備は、原則として建物本体と区分して耐用年数を適用するのであるが、木造、合成樹脂造り又は木骨モルタル造りの建物の附属設備については、建物と一括して建物の耐用年数を適用することができる。
耐用年数の適用等に関する取扱通達2-2-1(木造建物の特例)
建物より付属設備の耐用年数が短いので、減価償却費の金額が大きくなります。
個人は、更正の請求と呼ばれる方法で、過去にさかのぼって、税務署に直してもらうように請求することができますが、区分計上するための根拠となる資料が必要です。
短期は法人、長期は個人で所有
不動産管理法人などを別に経営している方は、目的、所有期間によって、法人か個人どちらで所有するかを決めることができます。
不動産の売却益であるキャピタル・ゲインを目的に短期間で売買する場合には、個人の譲渡所得の税率は40%になりますが、法人税率は最大33%ですので、法人で所有した方が有利です。
家賃収入であるインカム・ゲインを目的に長期間保有する場合には、個人の譲渡所得の税率は20%に軽減されるので、法人税率23%、33%が適用される法人と比べると、個人で所有した方が有利になります。
ただ、個人の所得税率は累進税率で、所得税率が高い方が、不動産を個人で所有すると家賃収入に多額の税金がかかるので注意が必要です。
減価償却費に関する不動産投資の節税方法
減価償却費の利益繰延に対する対応
減価償却費には利益の繰延べという側面があるので配慮が必要です。
減価償却費を計上すると、建物の金額が減ります。
将来売却する際の建物の譲渡原価が少なくなり、売却益が増えるので、課税されることになります。
ただ、将来必ず売却価格が上がるとは限らず、減価償却費を計上しなくても売却損であった場合には、減価償却費を計上した方がよかったということになります。
土地活用を目的として、土地のみで売却することもあり得ます。
法人税率や所得税率を考えて、減価償却費を計上して、将来売却する際の税金は、売却代金から払うというスタンスでよいでしょう。
売却のタイミングに合わせて修繕をすると、現状回復の範囲内であれば、個人は不動産所得が減り、法人は売却益と相殺することができます。
また、修繕により市場価値を高めて物件を売ることができるといったメリットもあります。
減価償却費の前に役員報酬を計上
家族経営の会社は、自分を含めて家族が役員であることが多く、家族に役員報酬を払っても、お金が外部に出るわけではありません。
役員報酬は、家族単位ではお金の動きがなく、税金を減らすことができます。
個人の所得税を考慮する必要がありますが、給与所得控除を受けられる上、法人税を減らすことができるのでメリットが大きいです。
先ほどの章で、減価償却費の計上により利益が繰り延べられ、売却益が発生すると書きました。
その対応として、法人は役員報酬を支払って法人税を抑え、減価償却費をできる限り計上しないこともできます。
不動産投資は、他の事業と異なり、売上である家賃収入は、毎月定額で事前に予測でき、利益、所得も把握できるので、役員報酬も決めやすいです。
売買時に決算期を変更
多額の売却益が生じる場合には、決算期を前倒しに変更して、売却を翌期にします。
役員報酬を期の途中で上げると費用として認められないので、翌期に役員報酬を上げることによって、売却益と相殺することができます。
また、翌期に修繕することによって、売却益と相殺することもできます。
決算期の変更の手続きは、定款を変えて、届出が必要ですが、コストはかかりません。
ただ、納税の回数が増えますし、利益操作の観点で、融資先である銀行からいい目ではみられないので、経営上必要な理由を設け、必要最低限にしましょう。
デッドクロスで売買
デッドクロスとは、ローンの元金の返済額が減価償却費の金額を上回ることで、家賃収入から手元に残るお金が減り、資金繰りが悪くなる状態を言います。
最初の例で、ローンの元金の返済を考慮すると、手元に残るお金はかなり減ります。
建物の減価償却費は、定額法で計算し、毎期一定の金額になるので、デッドクロスは以下の状況でおとずれます。
- 耐用年数が経過して、減価償却費が計上できず、一気に資金繰りが悪くなる
- 元利均等で、元金の返済額が増え、減価償却費の金額を超えて、資金繰りが徐々に悪くなる
- (最初から、減価償却費の金額よりも元金の返済額が大きく、デッドクロスがこない)
3については、購入前であれば、購入を考え直し、購入してしまった場合には、借換、売却等の対策を講じます。
1については、耐用年数が短いアパートなどの築古物件でローンの返済期間が長い場合、2については、マンションなどの耐用年数が長い築浅物件で生じます。
デッドクロスのタイミングは、建物の金額、耐用年数、ローンの金額、返済方法(元利均等、元金均等)、返済期間、金利等によって変わってきます。
大切なのは、デッドクロスのタイミングを知り、できれば、購入前に何年後にデッドクロスがくるかを把握しておき、そのタイミングで売却する計画をたてることです。
1のように、お金を早めに多く回収して、減価償却費が計上できなくなるタイミングで売却し、次の物件で同じことを繰り返していくことが理想的な投資です。
築古物件を5年間隔で売買
不動産投資は投資である以上、お金の回収期間をできる限り短くして、早めに資金の回収を図る必要があると既に書かせていただきました。
築古と呼ばれるアパートは耐用年数の全てを経過しているので、先ほど計算した通り、木造で5年になります。
個人にとっては、譲渡所得が短期から長期に変わって、税率が40%から20%に軽減されるのも5年です。
5年で売却して、売却資金や毎月の家賃収入から残ったお金で、新たな物件を購入し、またその物件で減価償却費を計上するというのは、譲渡所得を減らし、減価償却費を効果的に活用した不動産投資と言えます。
ただ、築古の中古アパートを次のオーナーに買ってもらうためには、しっかりと修繕された物件を購入し、自らもしっかりと修繕をして売却します。
木造の耐用年数は22年ですが、修繕がしっかりとされている物件は、30年、40年でも稼働します。
それでも、次のオーナーがローンを組む必要があり、築古だと購入してくれないと心配な方や初心者は、利回りが低くなりますが、築年数10年から15年程度の物件を購入するとよいでしょう。