不動産投資で金地金売買の消費税還付スキームを使う余地

不動産投資で金地金売買の消費税還付スキームを使う余地 不動産投資節税

不動産賃貸業で金地金の売買取引を行い、課税売上割合を95%以上にすることによって、建物の購入に係る消費税の還付を受けるスキームが流行りました。いわゆる、金地金売買の消費税還付スキームです。

令和2年税制改正により使えなくなりましたが、1,000万円未満の建物は対象外です。区分マンションや戸建ての中には、建物が1,000万円未満の物件もあります。

金地金売買の消費税還付スキームとは

消費税の納税は、売上の消費税から仕入・経費の消費税を差し引いて計算します。仕入・経費の消費税が多いと還付になります。

取引には消費税がかかる取引とかからない取引があります。

消費税がかかる売上(課税売上)に対応する仕入・経費の消費税を差し引くことができます。逆に、消費税がかからない売上(非課税売上)に対応する仕入・経費の消費税を差し引くことができません。

社会性策的な配慮から、住居の家賃には消費税がかかりません。家賃収入は非課税売上で、それに対応する住居として賃貸するために購入した建物の消費税を差し引くことができません。

ただ、課税売上割合(課税売上/課税売上+非課税売上)が95%以上ですと、非課税売上が少額ですので、事務簡素化の観点から、全ての仕入・経費の消費税を差し引くことができます。

そこで、消費税がかかる取引として、多額の取引金額を生じさせることのできる金地金の売買取引が出てきます。

金地金の売却により意図的に課税売上を計上し、課税売上割合を95%以上にすることで、住居として賃貸するために購入した建物の消費税を差し引き、還付を受けます。これが、金地金売買の消費税還付スキームです。

その後、差し引いた年を含めた3年間の平均課税売上割合を約50%以上にしないといけないのですが、金地金の売買によって課税売上を容易に計上することができます。

金地金売買の消費税還付スキームの改正と少額基準

令和2年税制改正で、金地金売買の消費税還付スキームが使えなくなりました。

裁判でこのスキームが否定されたと認識されている方がいらっしゃいますが違います。この裁判は、建物を仕入れた日が契約日でよいか否かを争い、消費税還付の是非を争ったものではありません。

何より、税制改正をしたということは、改正前の法令では、金地金売買の消費税還付スキームが合法的に行われており、税務当局として防げなかったことの裏返しです。

改正によって、規制の対象となったのは高額特定資産等で、1,000万円以上の資産です。区分マンションや戸建ての中には1,000万円未満の建物があります。

消費税10%相当の100万円程度の還付を受けても、金地金の売買に係るコストとしてかかってくることを考慮したものだと思われます。

金地金売買の消費税還付スキームの留意点

金地金の売買取引には資金が必要

課税売上割合を95%以上にするためには、家賃収入を全体の5%未満にする必要があります。

例えば、家賃収入が月10万円の区分マンションや戸建てを7月に購入したとします。

1年目の家賃収入は50万円です。

50万円を5%にするには、950万円(50万円÷5%-50万円)の金地金の売買が必要になります。1,000万円程度も資金が必要です。

3年間の平均課税売上割合を50%以上にする必要もあります。

2,3年目を同じ課税売上割合に設定すると、課税売上割合を約30%((95%+30%+30%)÷3=51.6%)以上、家賃収入を全体の70%以下にする必要があります。

2,3年目の家賃収入は120万円です。

120万円を70%にするには、約51万円(120万円÷70%-120万円)の金地金の売買が必要になります。

手数料、スプレッド(業者の利益)がかかる

田中貴金属では、金地金100,200,300gの取引は売買手数料が片道16,500円です。

現在1g約8,800円ですので、300gの売買取引には、264万円(300g×8,800円)の資金が必要になります。

1,000万円の売買取引をするには4回必要であり、手数料が132,000円(16,500円×4回×売買2回)かかります。

500gの売買取引で手数料は無料になりますが、440万円(500g×8,800円)の資金が必要になります。手数料が無料の会社もありますが、資金は必要になってきます。

金地金の価格が下がる場合には、すぐに売り買いをした方がよいですが、売買のスプレッド(業者の利益)が発生します。

田中貴金属のスプレッドは1g約100円ですので、12万円(100円×300g×4回)になります。

金地金売買の消費税還付スキームについての私見

手数料、スプレッドのコストと、購入する建物の消費税を比較して検討する必要がありそうです。

資金が少ない場合には、個人事業主であれば12月の年末、会社であれば決算期末に建物を購入します。

1年目の家賃収入は10万円と少なくなり、190万円(10万円÷5%-10万円)の金地金の売買で済みます。手数料やスプレッドのコストも少なくなります。

私は課税庁側の人間ですが、納税を義務としながらも、法令の範囲内で、金地金の売買によって消費税の還付を受ける節税を権利ではないとするのは、都合が良い気がします。

金地金の取引に消費税をかけている法制度に根本的な問題があります。更に、消費税法には、他の税目にある同族会社の行為計算否認という規定がないので、法令の範囲内で行われた取引を否認することができない法整備にも問題があります。

その反面、不動産賃貸業で金地金を売買することに経済合理性がないので、金地金売買の消費税還付スキームを自ら使うつもりありませんし、私が税理士だとしても、積極的に推奨することはしないでしょう。

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