税務署職員の大卒程度である国税専門官の倍率は、年々下がり、かつては10倍あったのに、今は3倍まで下がっています。
採用者数を増やしているためです。
スマート行政をすすめることに矛盾していますし、採用者数を増やす前に、本当にこんなに税務調査が必要なのか?といった業務の効率化の検証がされていない気がします。
そんな中でも、税務署職員の仕事はすすめられるのでしょうか。
税務署職員として働くメリット
税務調査の経験が積める
調査官には質問検査権が与えられています。
私の手元にも質問検査証があり、税務調査で納税者から求められると、質問検査証を提示する必要があります。
質問検査は任意調査が前提で行われますが、納税者が理由もなく拒否すると、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金が科せられます。
質問検査権は事実上の強制力をもっています。
納税申告に関する質問検査に限りますが、調査官にその方法は委ねられています。
税務署職員になると、所得税、法人税等の納税申告が適正であるか否かを調査する経験を積むことができます。
将来的に税理士になるには、反対側の調査官として税務調査を経験して、税務行政を知ってからでも損はないです。
税法などの研修が多い
税務署職員は研修が受けられます。特に、採用後には多くの研修が用意されています。
例えば、国税専門官採用試験(大卒程度)に合格すると、採用後に以下の研修を受けます。
研修 | 主な内容 | 期間 |
専門官基礎 | 簿記、税法全般 | 3か月 |
専攻税法 | 専攻税法、調査知識 | 1か月 |
専科 | 事務系統別に専攻税法、ゼミ | 実務経験3年後に7か月 |
給料を受け取りながら、約1年間も税法などの研修が受けられるのです。
税理士試験が免除される
10年働くと、税理士試験の税法科目が免除されます。
23年働くと、会計科目も免除され、税理士になることができます。
税務署職員が、税理士試験の勉強をせずに、働くだけで税理士なることができるのには違和感がありますが、利用するに、越したことはありません。
公務員として安定した給料がもらえる
税務署職員は国家公務員法により身分が保障されており、基本的にリストラされることはありません。
職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。
国家公務員法75条(身分保障)①
人事評価制度に基づき、業績と能力で評価されますが、悪くて給料が減ったような話は聞いたことがありません。
評価が良いと、上乗せされてボーナスが支給されますが、毎月の給料が増えるわではないので、年収にはあまり影響がありません。
普通に仕事をしていれば、普通の給料を受け取ることができます。
公務員は不動産投資ローンの属性が高い
不動産投資をするには金融機関から融資を受ける必要があります。
公務員である税務署職員は属性が高く、金融機関も貸しやすいと言われています。
政府が倒産することはなく、公務員は毎月安定して給料を受け取ることができるからです。
公務員は属性が高いのに、不動産投資ローンでレバレッジを効かせて資産形成をしないのは、もったいないです。
不動産投資はリスクを最大限に考慮して行うことによって、失敗を避けられますし、むしろ、有効な資産形成の手段になります。
税務署職員として働くデメリット
再任用職員は肩身が狭い
税務署職員は出世すると税務署長になることができます。
税務署職員が約5万6千人、全国の税務署が524署ですので、税務署長になれる人はわずかです。
特に、東京国税局の税務署職員は約1万5人と多く、管内に税務署が84署のみで、地方の国税局に税務署長のポストを割り当ててもらっている状態です。
ただ、税務署長になっても、再任用職員として働く人が増えています。
かつては税務署職員を辞めて、税理士になっても、顧客のあっせんを受けられましたが、今はありません。
税務署長が定年で辞め、税理士になっても、それまでの役職は世間に出たら関係ありませんし、60歳を過ぎた年齢で、税理士として営業する行動力はありません。
再任用職員として、かつての部下の下で働くと、お互いに気を使いますし、再任用職員は肩身が狭い思いをします。
時間当たりの給料は高くない
税務署職員の給料は、税務職俸給表に基づき支給されます。公開されています。
役職が上がると級が上がります。その役職で働き、時間が経過すると号俸が上がっていきます。
給料が月35万円で、ボーナスが4か月分だとすると、年間で560万円(35万円×16月)になります。
年間稼働日数245日(365日-休日120日)、1日8時間で割ると、時間給が求められ、2,857円(560万円÷245日÷8時間)になります。
この時間給では、効率的に稼いでいるとは言えません。
俸給表は最大でも10級で、税務署長になっても50万円で、時間給はそれほど上がりません。
若いときは、級が早く上がるので、いいかもしれませんが、中高年になると、稼働時間を減らして、時間給をもっと上げる必要があります。
希望どおりの部署で働けないこともある
税務署長になっている人の多くは、税務調査だけでなく、マネージメントを行う部署で働いています。
国税庁や、国税局の総務課、個人課税・法人課税課等(主務課と呼ばれる税法の名前がついている部署)がその部署になります。
その代わり、残業は多く、特に国税庁では残業時間が過労のラインに近づきます。
定員を増やすには時間も労力もかかるので、国税庁にはマンパワーが足りておらず、その措置がされていません。
また、未だに上下関係が厳しい部課があり、もっと風通しをよくすべきですが、今までこうしてきているからという流れになっています。
民間企業もそうですが、税務署職員にもパワハラとまでは言いませんが、そのように感じる嫌な上司、先輩は少なからずいます。
税務署職員約5万6千人の異動を考えるのは大変で仕方ありませんが、人事異動は毎年行われるので、そのような部署を希望していなくても、異動させられることがあります。
体質や環境が古い
納税者情報を扱うので仕方がないとは言えますが、クラウド化等により、在宅勤務で仕事をする環境が整っていません。
最近ようやく、11インチのパソコンが順次配備されるようになってきましたが、在宅勤務の際には14インチの大きなパソコンを持ち帰って仕事をしています。
ペーパーレス化と言われているのに、未だに紙媒体での事務を行うことが多いです。
事務年度末になると、納税者から提出された申告書、届出書等を、職員総出で、納税者ごとのファイルにつづっています。
ホワイトワーカーとは思えないところがあります。
他の公務員と同様に、税務署職員が働く組織は、縦割りでトップダウンの色が強いです。
上級官庁である国税庁の決めた方針は国税局や税務署が基本的に変えることはできません。
安定というメリットと改善スピードが遅いデメリットが混在しています。
結局、税務署職員の仕事はすすめられるか
税務調査の経験ができ、税法の勉強ができる上、更に税理士になれるので、税務職員として働くことをすすめるかと聞かれたら、すすめます。
ただ、税務署職員が働く組織は体質が古く、希望どおりの部署で働けないこともあります。
公務員は頑張って働いても、その分多くの給料がもらえるわけではありません。
給料が上がらない日本と言われていますが、その一つが公務員の給料体系であると感じています。
定年後の人生も長いので、税務署職員として若いうちに、ある程度働いたら、税理士に切り換えて、第2の人生を歩むことを合わせて、すすめさせていただきます。